■あらすじ「かぜはどこからふいてくるの?」結婚前夜、最後の挨拶の前に娘は母親にたずねる。窓に映る自分を見つめ、母親はゆっくり語り出す。それはまだ、雪が冬に降っていた頃のお話。海が一望できるクジラ山に喋らない男が住んでいた。風が吹き、大事な人を失った事を知った男は広大な庭にポツンと電話ボックスを置いた。その中にあるのはどこにも繋がっていない黒電話。受話器から聞こえるのはそこに留まる風の音。風とだけ、男は話した。ある日、山の下で轟音が聞こえた。黒い化け物が全てを飲み込んだ。男は叫んで泣いた。こんなに泣いたのは、生まれて以来二度目である。悪夢を見つめる男の目に、山を登ってくる小さな黒い塊が映る。男に近づくにつれその塊は、形を人に変え、ゆっくりと目を開く。男の声に反応する事なく、それは電話ボックスに寄り添い腰を下ろした。風が吹いた。「ジリリン。ジリリン。」それは鳴る。吸い込まれる様に受話器を取る男。「・・・・・。・・・もしもし・・・。」男の耳に思いもよらない声が帰って来る。「・・・ただいま・・・。」こんなにもすぐに訪れるものだろうか。もう枯れてしまうくらい流したばかりなのに。男は、泣いていた。こんなに泣いたのは生まれて初めてである。
価格:1,000円